大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(う)518号 判決 1985年7月15日

被告人 仲村操

昭二六・九・七生 無職

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中八〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人石坂基名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴趣意第一(訴訟手続の法令違反の主張)について

所論は、「原審において、被告人仲村は、最終陳述として引用した上申書で、原判示第一の被害者新坂秀幸を追及した動機、暴行ないし脅迫につき、起訴状記載の事実を一部否認したのに対し、相被告人照屋は終始事実を争わず、専ら示談等により情状を良くすることに精力を集中していたのであるから、被告人仲村と相被告人照屋とは利害相反したものというべく、このような状況のもとでは、原審裁判所としては、両被告人に個別の弁護人を付し、必要に応じて弁論を分離したうえ、事実について審理すべきであつて、原審裁判所が両被告人を同一の国選弁護人に弁護させたことは、被告人の防禦権行使を不十分ならしめたもので、刑訴規則二九条二項に違反し、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。」というのである。

しかし、刑訴規則二九条二項にいう「被告人の利害が相反しないとき」とは、一方の被告人に有利な事実又は弁護活動が、当然に他方の被告人の不利益に帰するとはいえない場合をいうものと解すべきであり、被告人仲村においては事実の一部を争い相被告人照屋においては事実を全く争わず情状を良くすることに精力を集中していたという状況があつても、それだけでは右にいう「被告人の利害が相反しないとき」に当たらないとはいえない。そのような状況のもとで両被告人に同一の弁護人が付されても、弁護人は、必要に応じ、まず被告人仲村の争う事実関係の立証を行い、しかる後に情状立証を行うことは可能であり、あるいは両被告人の弁論を分離してそれらの立証を行うことも可能なのであり、しかもそれらの立証は、両被告人の利害という点では共通の作用をするからである。したがつて、原審裁判所が両被告人を同一の国選弁護人に弁護させたことは違法とはいえない。論旨は理由がない。

二  控訴趣意第二(事実誤認の主張)について

所論は、「被告人仲村としては、恐喝の意思はなく、照屋と新坂とに示談をさせたにすぎない。また、原判決が認定した第一の事実のうち、(一)山林において、被告人仲村は、サイやナイフで新坂の顔や体を突いたり、危害を加えかねない気勢を示したとの点は誤りであつて、そのような事実はなく、原判示の脅迫文言も、すべてを申し向けたわけではない、(二)旅館「やまつ」において、被告人仲村は、新坂にナイフを突きつけたとの点も誤りであつて、そのような事実はない。」というのである。

そこで、記録を調査して検討すると、原審において同意書証として取り調べられた新坂の司法警察員に対する各供述調書の記載及び照屋の検察官に対する昭和五九年一一月二九日付、同年一二月三日付各供述調書の記載並びに照屋の原審公判における各供述には、何ら信用性に欠けるところは認められず、これらの証拠を総合すれば、原判示第一の事実は、恐喝の犯意の点を含め、優にこれを肯認することができる。論旨は理由がない。

三  控訴趣意第三(量刑不当の主張)について

所論は「被告人仲村の反省、更生の見込み、境遇等の外、原判示第一の事実につき、その犯行態様、動機、被告人仲村の法的知識の不足を、原判示第四の事実につき、原判決後に示談が成立したことを、それぞれ考慮すると、原判決の量刑は重きに失する。」というのである。

そこで検討すると、原判示第一の罪は、被告人仲村のとつた手段が、被害者のみぞおちを足蹴にしたり、これにサイを突きつけ、ナイフで服の上から突くなどという兇暴なものであり、喝取した金額が照屋の被害額を大きく超過していること、原判示第三の各罪は、計画的かつ連続的で、しかも被害額が多いこと、原判示第四の罪も、計画的であり、かつ、手製のあいくちを被害者に突きつけて傷害を負わせるという兇暴なものであり、しかも被害額が多いこと、原判示第一及び第三の各罪については、主犯とはいえない照屋が、原判示第一の被害者に八〇万円を支払つて示談を遂げたが、なお懲役二年六月(ただし三年間執行猶予)に処せられ、その刑が確定していること、被告人仲村は、右各罪については主犯というべきであり、その外、単独で原判示第二及び第四の各罪をも犯しているうえ、後者の罪の法定刑はその下限が懲役七年であること等を考慮すると、原判示第四の罪について原判決後に示談が成立したことを含め、所論及び原判示の被告人仲村に有利な諸事情を十分考慮しても、なお、原判決の量刑が重きに失するとはいえない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条により当審における未決勾留日数中八〇日を原判決の本刑に算入し、当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項但書を適用してこれを被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 海老原震一 森岡茂 小田健司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例